ニュースの概要
和歌山県林業試験場と森林研究・整備機構の林木育種センター関西育種場などが、花粉をまったくつくらない無花粉スギの新品種を開発した。富山県で見つかった無花粉の個体と、和歌山県産で成長や材質のよいスギを人工的に掛け合わせ、さらに次の世代どうしも交配して選び抜いた。その中から7品種が優良品種として2026年10月に認定された。2024年度から2025年度にかけて成長のデータを解析し、木材として使える力があるかも確かめている。今後は枝を台木につなぐ接ぎ木などで苗木を増やし、安定して供給できる体制づくりを進める方針だ。
引用元: 無花粉スギの新品種を開発、人工交配で林業振興と花粉症対策へ(Sankei Shimbun)
分析・見解
無花粉の性質に成長力を重ねた点が新しい
無花粉スギそのものは、ここ数十年で各地の研究機関が見つけてきた。ただ、花粉が出ないだけの木では林業の現場に広がらない。育ちが遅い、幹が曲がる、強度が足りないといった弱点があれば、植える側が選ばないからだ。
今回の成果の核心は、富山県で見つかった無花粉の性質に、和歌山県産の成長と材質に優れたスギを掛け合わせた点にある。さらに次の世代どうしを交配し、7品種まで絞り込んだ。花粉症対策としての価値に、木材としての経済性を重ねたことが、これまでの個体発見型の研究と違う。
世代交配が必要になる遺伝の仕組み
無花粉の性質は、多くの場合、両親から同じ型を受け継いだときだけ現れる。これを劣性遺伝(=ふつうは表に出にくい性質)という。最初の交配では、子は花粉を出す個体ばかりになることが珍しくない。
そのため、子どうしをさらに掛け合わせ、孫の世代で無花粉の個体を取り出す作業が要る。スギは種をつけるまでに数年、成長を見極めるのにさらに年数がかかる。今回、成長データの解析に2024年度から2025年度の2年分を使ったのも、見た目だけでなく数字で優劣をつけるためだ。育種は時間の勝負であり、この積み重ねが7品種という数に表れている。
苗木の量産が追いつくかが最大の関門
品種が認定されても、山に植えられる苗木が足りなければ効果は出ない。スギの種子は無花粉の性質を保証しにくいため、接ぎ木や挿し木で同じ性質の個体を増やす。この方法は種から育てるより手間とコストがかかる。
参考になるのは、すでに普及が進む少花粉スギだ。少花粉スギは苗木の生産が拡大し、新しく植える苗の中で大きな割合を占めるようになった。それでも日本の人工林は戦後に植えられたスギが中心で、全国のスギ林の面積は約440万ヘクタールに及ぶ。一方、毎年の再造林は数万ヘクタール規模にとどまる。植え替えのペースが遅い限り、街で感じる花粉の量が急に減ることはない。
花粉の削減は伐採と植え替えの速度で決まる
独自の視点として強調したいのは、無花粉スギは新薬ではなく、森の入れ替えという長い工程の部品だという点である。品種の優秀さと同じくらい、古いスギを伐る担い手と、伐った後に植える資金が重要になる。
成熟したスギ林が花粉の主な発生源だ。そこを無花粉品種に置き換えるには、数十年単位の計画が必要になる。今回の認定は、その長い工程にようやく使える優れた部品が加わったという意味を持つ。花粉症の患者にとっては即効性のある話ではないが、供給側の準備が整った点で確かな前進である。
ビジネスへの影響
苗木と素材の供給網に新しい需要が生まれる
最も直接的に動くのは、苗木を育てる事業者と森林組合だ。優良品種の認定後は、接ぎ木で母樹を増やす設備や技術者が必要になる。苗木の価格は通常のスギより高くなる可能性があり、補助金の対象になるかどうかで採算が大きく変わる。
木材を買う側の工務店や製材業者にとっては、成長と材質が確かめられた品種であることが安心材料になる。将来の仕入れでは、無花粉であることを付加価値として説明できる余地もある。ただし、強度や乾燥のしやすさは実際の出荷材で確かめる必要があり、早めに試験的な取引をして情報を集めておきたい。
自治体と企業が今から動かせる三つの手
自治体は、再造林の補助制度に無花粉品種を優先する条件を加えられるかを検討したい。企業は、社有林や取引先の山林がある場合、次の植え替えで採用する品種を決める時期に入っている。
住宅や不動産の分野では、国産の無花粉スギ材を使った家という説明が、花粉症に悩む購入者への訴求になり得る。ただし、建材の中身が花粉を出さないわけではない点を正しく伝えないと、誤解を招く。表示の言葉は慎重に選び、効果を誇張しないことが信頼につながる。まずは情報収集と小規模な試験導入から始めるのが現実的な進め方である。
