ニュースの概要
オランダ系の種苗会社Rijk Zwaanのイタリア責任者が、現地の種子市場の課題を語りました。市場はイノベーションを軸に多様化しているものの、病害の広がり、販売価格の伸び悩み、利益率、研究に回せる資金の確保が重い課題だといいます。とりわけ強調されたのが、特許で守られた品種が無断で増やされ、売られてしまう問題です。この行為は種苗会社の収益を削り、次の品種開発に使うはずの資金を奪います。同社は、病害に立ち向かうには遺伝研究と種子技術を絶えず進める必要があると述べました。あわせて、味や品質の向上、カット野菜のような新しい市場分野にも成長の余地があるとしています。
引用元: Rijk Zwaan、種苗業界の課題として病害対策と違法増殖を指摘(HortiDaily)
分析・見解
病害対策と違法増殖は同じ資金問題の裏表
今回の発言で目を引くのは、病害と違法増殖が別々の話として語られていない点である。両者は研究開発費という一本の線でつながっている。
新しい病害抵抗性を持つ品種を作るには、親となる系統を集め、交配を重ね、各地の畑で試験する。一つの野菜で品種が市場に出るまで、一般に8年から12年ほどかかるとされる。この長い期間を支えるのが、既存品種の販売収益である。違法増殖で売上が削られれば、その分だけ次の品種を生む力が弱まる。
病原菌は変化し、育種は追いかけ続けるしかない
野菜の病害は、一度抵抗性品種で抑えても終わらない。病原菌が変異して、抵抗性をすり抜ける新しい型(=レース)が現れるからである。レタスのべと病では、新しいレースが確認されるたびに品種側の抵抗性遺伝子を組み替えてきた歴史がある。トマトの褐色根腐れ果実ウイルスのように、国境を越えて急速に広がる病気も出ている。
育種は、止まれば負けるレースである。だからこそ遺伝研究への継続投資が欠かせない。近年は、病気に強い遺伝子の目印を調べて選抜を早める手法が普及した。これにより開発期間は縮まりつつあるが、設備と人材にかかる固定費は重くなる。
利益率の低下が開発の選択肢を狭める
販売価格が上がりにくい一方で、小売や外食は安定供給と低価格を同時に求める。種苗会社の側には、病害抵抗性、収量、日持ち、味と、求められる性能が増え続ける。性能を盛り込むほど開発費は膨らむが、価格に転嫁しにくい。
利益率が下がると、企業は回収の確実な主力作物に研究を集中させがちになる。すると、市場の小さい作物や地域固有の病害への対応が後回しになる。種子の世界で利益の圧迫が最も怖いのは、数年後に品種の選択肢そのものが痩せていく点にある。
味とカット野菜という出口が示す次の競争軸
同社が成長分野として挙げた品質・食味とカット野菜は、育種の評価軸が畑から食卓へ移ることを示す。カット野菜では、切り口が茶色くなりにくいこと、形や大きさがそろうこと、洗浄後も傷みにくいことが重要になる。これらは農家の収量とは別の価値であり、加工業者が品種選びに口を出す場面が増えていく。育種会社は、農家だけでなく加工・流通まで含めた顧客設計を迫られている。
ビジネスへの影響
生産者と加工業者が今日からできる備え
種子を買う側にとって、違法増殖の問題は他人事ではない。出所の不明な安価な種苗を使うと、品種の性能が保証されないだけでなく、病害抵抗性が表示どおりに働かない危険がある。苗や種子は、正規の流通経路から購入し、ロット番号や購入記録を残しておくとよい。万一病害が出たときに、原因を品種側と栽培側に切り分けやすくなる。
また、複数の品種と複数の種苗会社に分散して作付けすることも有効である。特定の抵抗性に頼りきると、新しい病原菌の型が出たときに全滅に近い被害を受ける。
食品企業と小売が考えるべき調達の見直し
カット野菜や外食向けの食材を扱う企業は、種子の段階から調達を考える時期に来ている。味や加工適性を指定した契約栽培を結べば、育種会社と生産者に開発の方向性を示せる。その際、価格だけで産地を決めると、研究投資を担う側に利益が回らず、長期の品種改良が細る。
仕入れ価格の交渉では、品種の更新費用が最終的に自社の供給安定につながることを意識したい。一定の品質と安定供給に対して適正な対価を払う姿勢が、結果として病害リスクの低減に効く。
投資家と新規参入者が見るべき指標
種苗事業に関心を持つ投資家や新規参入者は、売上規模より研究費比率と知的財産の守り方に注目するとよい。品種保護の権利を実際に行使できる地域か、模倣を見つける体制があるかで、同じ研究費でも回収力が大きく変わる。違法増殖への対策力は、見えにくいが企業価値を決める要素である。
