ニュースの概要
ニュージーランドのBioLumicと国際稲研究所(IRRI)は、フィリピンで光を使って種子の性質を引き出す技術の圃場試験を始めた。BioLumicのxTraitsは、薬剤や遺伝子組み換えを使わず、種子がもともと持つ遺伝子の働きを光で強めたり弱めたりするとされる。今回の試験は15カ月間で、直播栽培向けのイネを対象に、発芽、初期の生育、収量、形質の反応などを調べる。事前の試験ではIRRIが提供した品種も使われた。収量を守りながら、水の使用量やメタンの排出も減らせるかを確かめることが狙いである。
引用元: BioLumicとIRRI、光で種子形質を制御するイネ技術の圃場試験を開始(Seed Today)
分析・見解
直播と光処理を組み合わせる狙い
直播(=苗を育てず、田に種を直接まく方法)は、育苗と田植えの手間を省ける。人手も費用も減らせる。フィリピンなど東南アジアでは、労働力不足と水不足が同時に進み、直播が広がりつつある。一方で弱点もある。芽の出方がそろわない。雑草に負けやすい。根が浅く、倒れやすい。つまり直播の成否は、種が土に落ちてからの数週間でほぼ決まる。
今回の試験が発芽と初期の生育を先に見るのは筋が通っている。種の段階で手を加える技術は、農家の作業を変えずに効果を出せる可能性がある。種袋の中身が変わるだけなら、導入の心理的な壁は低い。
「遺伝子組み換えでない」ことの価値と限界
xTraitsは、種に特定の光を当て、もともと持つ遺伝子の働きを強めたり弱めたりするとされる。DNAの並びそのものは書き換えない。規制の面でも、消費者の受け止めの面でも、これは大きな利点になりうる。
ただし、効果がどれだけ続くのかはまだ見えない。光の影響が播種後まで残るのか、品種や土、気温で結果がどれほど変わるのか。公開情報だけでは判断できない。昔からある種子処理、たとえば播種前に水を吸わせて発芽をそろえる方法も、圃場ごとの差に悩まされてきた。光処理も同じ壁を越えられるかが焦点である。
水とメタンの削減は収量が守られてこそ
水田のメタンは、水を張った土の中で微生物が出す。田に水をためる期間を短くすれば減らせることは、広く知られている。直播は、代かきや常時の湛水を減らしやすい点で、この流れに合う。
ところが、水を減らすと雑草が増え、苗立ちも不安定になりやすい。収量が落ちれば、農家は環境のためだけに続けてはくれない。光処理が初期の弱さを補えるなら、水とメタンの削減策に「収量の保険」を付けられる。今回の試験の本当の価値はここにあると見る。
15カ月の試験で見るべき評価のものさし
15カ月あれば、複数の作期を観察できる。一度の天候だけで結果が決まる危険を減らせる。IRRIが加わることで、第三者の目で品種との相性を調べやすくなる点も大きい。
注目したいのは三点だ。処理をしない種との比較が、同じ田や同じ条件で行われているか。品種や場所がどれだけ多様か。水を減らした条件でも効くか。これらが公開されて初めて、事前試験の良い結果が、現場で通用する話に変わる。
ビジネスへの影響
種苗会社や商社が先に確かめたい三つの数字
最初に見るのは、効果の再現性である。何割の圃場で、どの程度の増収や苗立ちの改善が出たのか。平均値だけでなく、効かなかった圃場の条件も聞きたい。次に、処理後の種をどれだけ保存できるか。流通に時間がかかる種では、効果が薄れると意味がない。最後に、種1キロあたりの追加費用だ。
農家の判断はシンプルである。追加した種代より、増える収入や減る手間が大きければ使う。この計算が成り立つ価格帯を、試験結果から逆算しておくと交渉が速い。価格が見えない段階では、数量の約束は避けるのが無難だ。
排出削減や水管理の事業にどうつなげるか
自治体や支援団体、農業関連の企業にとって、水とメタンの削減は測れて初めて価値になる。測定や報告の仕組みが整わないと、削減分を成果として示しにくい。光処理の種が貢献した分を、水管理の効果と切り分けられるかも課題だ。
実務では、種の効果と水管理の効果を別々に測る試験区を設けるとよい。最初から両方を混ぜて評価すると、何が効いたのか分からなくなる。
小さく試し、記録を残して判断する
導入を考える企業は、いきなり大規模に動かない方がよい。数カ所の圃場で、処理した種と通常の種を並べて育てる。発芽率、雑草の量、収量、作業時間を同じ表に記録する。二作期分のデータがそろえば、社内の判断材料として十分に使える。
また、技術提供側との契約では、データの扱いと、効果が出なかった場合の取り決めを先に確認したい。新技術は話題性が先行しやすい。数字で比べる習慣が、いちばんの防御になる。
